投資のリスクをコントロールする

『全天候型トレーダー  バイ・アンド・ホールドの呪縛を解き放つ戦略』 トム・バッソ (著)

リスクはコントロールすべきもの?投資で負う「最大損失」の現実

「過去のパフォーマンスが良いといっても、現実にその経路で発生するドローダウンに耐えられる人はどこにもいないし、ましてや未来における再現性は絶対と言ってよいほどない」(『監修者まえがき』より)

投資経験がある方ならば、この言葉の重みを痛いほど理解できるのではないでしょうか?

ドローダウンとは、投資期間における資産の最大損失幅のこと。多くの人が推奨する「買ったら長期間保有するバイ・アンド・ホールド」戦略を、S&P500のような優良なインデックスでシミュレーションしても、過去には最大で60%近いドローダウンを経験することになります。

「この約60%の損失に、あなたは本当に耐えられるでしょうか?」

相場が好調な時は「長期保有していれば、必ず上がるから大丈夫」と思いがちです。しかし、相場が悪化し、希望のない暗いニュースばかりが流れる状況に直面したとき、自分の大切なお金が半減する恐怖に打ち勝てる人は、そう多くはありません。

この「不安」こそが、バイ・アンド・ホールドをシミュレーション上の幻想に終わらせてしまう最大の要因です。

本書が示す「全天候型トレーダー」の哲学

本書『全天候型トレーダー』は、この「不安」に打ち勝てない人間の弱さ、そしてバイ・アンド・ホールドの呪縛から離れ、投資家が主体的に「リスクをコントロールする」ことを目的として書かれています。

リスクから完全に逃れることはできません。リスクから逃げれば、リターンを得ることもできないからです。だからこそ、私たちはリスクに立ち向かう必要があります。

著者は、「投資のコツは、リスクを減らすことではなく、自分の許容できる範囲で、最大限のリスクを取ること」だと主張します。

そして、その最大限のリスクを取るために「リスクをコントロールする」考え方が重要になります。

これこそが、どんな相場環境にも対処できる、本書の描く理想の投資家像「全天候型トレーダー」の哲学です。

最大リターンではなく、最大ドローダウンを小さくする戦略

多くの投資家は「最大限のリターン」を目指しますが、本書は「最大ドローダウンをできるだけ小さくしながら、そこそこのリターンが得られる」バランスの良い戦略の重要性を説きます。(第2章)

リスクとリターンのバランスが取れた投資こそ、私たちが目指すべきゴールです。

本書で紹介されるリスクコントロールの手法には、以下のようなものが含まれます。

  • 投資のタイミングを計る戦略
  • 下落リスクにヘッジ(保険)をかける戦略
  • 様々な投資戦略に幅広く分散させる戦略

これらの戦略すべてを実践する必要はありません。著者が伝えるのは、あなたの生活スタイル、投資にかけられる時間、資金量、そして目的に合わせて、自分ならではの「全天候型トレーダー」という投資スタイルを構築するためのヒントです。

短期投資家だけでなく、長期投資家も含め、「自分の大切な資産を自分のコントロール下で守りたい」と願うすべての人に、一読の価値がある一冊です。