【書評】投資に「頭の良さ」は不要?『サイコロジー・オブ・マネー』が教える資産形成の真実

お金の話というと、金利や複利の計算、経済学の難しい理論など、論理的・数理的に考えるのが正しいと思われがちです。
しかし、現実の私たちの世界では、経済学者が使うような難しい数式はほとんど役に立たないのかもしれません。
今回は、お金とうまく付き合うための「心理学(ソフトスキル)」の重要性を説き、世界的な大ベストセラーとなった一冊、『サイコロジー・オブ・マネー』をご紹介します。
経済的な成功は「知識」よりも「どう振る舞うか」で決まる
本書の根幹にあるのは、「お金とうまく付き合うには、頭の良さよりも行動が大切である」という主張です。
どんなに優れた天才でも、感情をコントロールできなければ破産してしまうことがあります。逆に、特別な金融の専門知識を持たない普通の人でも、ごく単純で合理的な行動を実践できれば、裕福になることができるのです。
本書では、「はじめに」で地味な清掃員の実例を用いて、その意味を解説していました。
つまり、投資や資産運用で成功するために本当に必要なのは、難しい数式を理解することではなく、自分の感情と向き合い、心理的に納得できる方法を選ぶことだと言えます。
しかも、この話は投資や資産運用に限ったことではなく、「お金」に関わるすべてのことに対して言えることなのです。
ノーベル賞学者でさえ「心理的な安心感」を優先する
現代の投資理論の基本である「現代ポートフォリオ理論(MPT)」を考案し、ノーベル経済学賞を受賞したハリー・マーコウィッツでさえ、自身の資産運用にはその理論を使っていなかったという驚きのエピソードが本書で紹介されています。
彼は、株式市場が大きく値上がりしたときの後悔と、大きく値下がりしたときの後悔を想像し、「将来の後悔を最小限にする」という意図から、債券と株式に半分ずつ投資することを選んだのだそうです。
正直これはびっくりしました。現代ポートフォリオ理論でノーベル賞まで取ったのに、実際にはそれとは全く関係ない方法で投資をしようと考えていたわけですから。
そして、私たちの多くは、この現代ポートフォリオ理論をもとに金融商品を選ばされていることもあり、あまりにも意外な話でした。
またサイコロジー・オブ・マネーの著者自身も、自宅を購入する際に「住宅ローン」を組まなかったという事例を紹介していました。
数理的に考えれば、今あるお金は手元にとっておき、住宅ローンを組むのが正解だと、多くのファイナンシャルアドバイザーたちも説明します。しかし、著者はそんなことよりも心理的に自分と家族に合っている方法を選んだと語っています。
お金の問題は、理論的・数理的に「正しい」ことよりも、心理的に「安心できる」「納得できる」ことの方が、私たちの行動にずっと大きな影響を与えるのです。
資産形成の要は投資リターンではなく「貯蓄率」
「経済的自立」や「自由」を手に入れるためには、高い投資リターンを追い求めるよりも、「貯蓄率」を上げることの方がはるかに重要です。
「貯蓄」と聞くと地味な印象を受けるかもしれませんが、貯蓄の本当の目的は、単にお金を貯め込むことではありません。蓄えがあることで心に余裕が生まれ、急なトラブルや「もしも」の事態に備えることができます。
この安心感こそが、会社や他人に依存せず、自分の人生を自分でコントロールできるという「経済的自立(自由)」の入り口となります。
そのためには、必ずしも数千万円という大金が必要なわけではありません。数十万円、数百万円の蓄えがあるだけでも、心のゆとりは全く違ってくるものです。
住宅や車を買うといった具体的な目的がなくても、「貯蓄していること自体に価値がある」という本書の考え方は、私自身の経験からも深く共感できるものでした。
