マーケットを理解する!

『市場は物理法則で動く―経済学は物理学によってどう生まれ変わるのか?』 マーク・ブキャナン (著)

💡 投資経験者が抱く「違和感」の正体を見抜く

「市場均衡」「効率的市場仮説」——これらは、私たちが投資を学ぶ際、あるいは金融機関からアドバイスを受ける際に必ず耳にする、金融業界の根幹をなす理論です。

しかし、実際に自分の資産を投じ、金融市場を肌で感じている方であれば、一度は心の中に「本当に市場は常に正しいのだろうか?」という違和感を覚えたことがあるのではないでしょうか?

本書『市場は物理法則で動く』は、そんなあなたの疑問を鮮やかに解き明かしてくれます。

この本を読み終わったとき、市場を見る目が根本から変わり、「市場とはどんなところなのか?」「市場には、どんな力が働いているのか?」を深く理解できるでしょう。

📉 「バブル」はなぜ起こる?効率的市場仮説が抱える致命的な矛盾

効率的市場仮説が「市場は常に正しい価格を提示している」と主張するのに対し、私たちの誰もが知る『バブル』と『バブル崩壊』という現象は、この理論の最大の矛盾点として存在します。

もし市場が常に正しければ、なぜ知らず知らずのうちに実体経済とかけ離れた価格が形成され、それが突然崩壊して多大な損失を生じさせるのでしょうか?

著者は、市場の持つ「効率性」を鋭く分析します。

株式市場は、新しい情報を瞬時に反映させる「情報の伝達効率」は高い。しかし、その情報を正しく理解し、正しい価格を示しているかは、また別の問題なのだと指摘します。

そして、価格が正しくない方向へと傾く原因として、「正のフィードバック」という現象を解説します。

  • 正のフィードバックの連鎖: 株価が上がったことが新たな買いを呼び、その買いがさらに株価を押し上げる――。

この連鎖こそがバブル形成の流れそのものです。このように、人間の行動と感情が相互に影響し合ってできた株価は、果たして本当に「正しい」と言えるのでしょうか?

🌪️ 経済学の限界を超えて:市場を「複雑系」として捉える

従来の経済学の理論は、市場を「均衡」に向かう合理的でシンプルなシステムとして捉えがちでした。しかし本書は、株式市場を、天気や地震と同じく、相互に作用し合う要素で構成された「複雑系」のシステムとして捉え直します。

複雑系として市場を考えると、「均衡」という考え方は市場の本質にそぐわなくなります。代わりに浮かび上がるのは「不均衡」という考え方です。

そして、この「不均衡」な市場の本質を物理学的に解析していくと、値動きの分布が、私たちが当たり前だと思ってきた「正規分布」ではなく、「べき分布」に従っているという衝撃的な結論にたどり着きます。

🚨 ノーベル賞理論が崩れる!投資の常識を覆す示唆

この「べき分布」という結論は、多くの金融商品の設計根幹にある現代ポートフォリオ理論(MPT)が、現実の金融市場に合わない可能性があることを示唆します。

MPTは値動きを「正規分布」として考えているため、もしこの著者の指摘が本質を突いているとすれば、MPTから導かれる結論は、「分散投資は大切だよ」という昔から言われている投資の原則に留まってしまいます。

金融機関やアドバイザーが用いる理論の多くが、理論と現実の間に大きなギャップを抱えている。これは、投資という行為の深さを改めて私たちに教えてくれます。

この本は、長年あなたが金融市場に対して抱いていた違和感をすべて解決し、「常識」を疑い、「本質」を見抜く知的な喜びを与えてくれる、非常に興味深い一冊です。

著名投資家たちが既存理論に批判的な意見を述べる理由も、この本を読めば理解できるはずです。