「金利が上がるとリートは下がる」は本当か?不動産と金利の切っても切れない関係

「金利のある世界」が本格化するにつれて、J-REIT(不動産投資信託)の価格は下落をつづけています。
「金利が上がれば、不動産価格もリートも下がる」 これは投資の教科書を開けば必ず書いてある、いわば“お約束”のルールです。
実際、歴史を振り返っても、金利が上昇する局面では不動産や株式をはじめとする多くの収益資産に下落圧力がかかってきました。
しかし、なぜ金利が動くだけで、あれほど巨大なオフィスビルや商業施設の値段がグラグラと揺さぶられてしまうのでしょうか?
そして、「金利上昇=リートは終わり」と決めつけて手放してしまうのは、本当に賢明な判断なのでしょうか?
今回は、金利が不動産価格を直撃するリアルなカラクリと、債券には逆立ちしても真似できない「J-REITならではのインフレ対抗力」について、わかりやすく紐解いていきます。
1. なぜ金利が上がると、ビルの値段が下がるのか?
理由は至ってシンプルです。不動産という買い物は、「借金」なしには成立しない世界だからです。
「にこにこ現金一括払い」でビルを買う人はいない
マイホームを買うときも、企業が工場を建てるときも、そして不動産のプロが何十億円ものオフィスビルを仕入れるときも、財布からキャッシュをポンと出して「にこにこ現金払い」なんてケースはまずありません。ほとんどのケースで、銀行から多額のお金を借り入れて購入します。
ここで重要なのは、「買う側も、貸す側も、利息の支払いを含めて採算を計算している」という点です。
例えば、毎月返済できる金額に限界がある中で、金利が上がってしまえばどうなるでしょうか?
- 銀行の視点:「金利が上がった分、返済負担が重くなるから、貸せる上限額(元本)を減らさざるを得ない」
- 買い手の視点:「利息の支払いが増えるなら、同じ借入額では採算が合わないから、物件の購入予算を削るしかない」
お金を貸す側も買う側も不動産購入のために使える資金が減る。となれば、不動産価格には必然的に強烈な「値下げ圧力」がかかることになります。
実際、個人が使う住宅ローンの借入額の計算には、利息を含めた月々の返済可能額が用いられています。つまり、同じ返済額でも、金利が上がれば、購入できる不動産の価格は低くなることを意味します。
投資家が求める「利回り」のハードルが跳ね上がる
もうひとつの理由は、投資家のシビアな計算です。
もし市場の金利(無リスクの国債など)がほぼ0%なら、不動産で「3〜4%の利回り」が得られれば十分に魅力的な投資に見えるかもしれません。
しかし、世の中の金利が3%まで上がってきたらどうでしょうか?
ノーリスクで3%手に入る世界で、わざわざ空室リスクや修繕リスクを背負ってまで「利回り3%のビル」を買う人はいませんよね。
「リスクを取るんだから、金利分を上乗せして最低でも6%、いや8%以上の利回りが欲しい!」と要求水準(期待利回り)が跳ね上がります。
では、家賃収入が年間500万円で変わらない物件があったとして、投資家が求める利回りが上がると、物件価格はどうなるでしょうか?
- 期待利回り 5% のとき: 500万円÷5% = 1億円
- 期待利回り 8% を求められると: 500万円÷8% = 6,250万円
家賃は1円も減っていないのに、金利が上がって求められる利回りが高くなっただけで、ビルの価値は1億円から6,250万円へと急落してしまうのです。 金利上昇が不動産価格を直撃するのは、気分の問題ではなく、冷徹な経済の数理メカニズムです。
2. リートの価格が下がるのは「債券」と同じ仕組み
この仕組みは、債券投資の考え方もまったく同じです。
たとえば100万円の債券(年利5%)は、市場金利が8%に上がると買い手がつかなくなり、価格は急落します。そうなると持っている債権は、額面通りの100万円で売ることはできなくなり、価値は約62.5万円まで下がることになります。(市場金利と同じ利回り8%(62.5万円×8%=5万円)になるまで価格が下がる。)
J-REITは、投資家から集めた資金と銀行からの借入金を元手に何棟もの不動産を買い、そこから得られる賃料収入を分配金として投資家に還元しています。
リートは、実質的に不動産のオーナーになっている以上、金利が上がれば不動産価格が下がり、リートの基準価格(株価)も引きずられて下落するのは当然の摂理と言えます。
プロの投資家は、リートが「買い時」かどうかを判断する際、国債の利回りとリートの利回りの差(イールドスプレッド)をよく見ているといいます。
- スプレッドが開いている(リート利回り > 国債利回り):「リスクの割に分配金が多くて割安だ!」と買われる。
- スプレッドが縮んでいる(国債金利が上昇してリートに迫る):「わざわざリスクを取ってリートを持つ意味が薄い」と売られる。
金利が上昇する局面では、このスプレッドがギュッと縮まるため、一時的にリートから資金が逃げ出し、価格が下がりやすくなるといわれています。
3. でも待ってほしい。リートには債券にない「最大の武器」がある
ここまで読むと、「やっぱり金利が上がる時代にJ-REITなんて買ってはいけないのでは?」と思うかもしれません。
しかし、ここで思考を止めてしまうのは非常にもったいないことです。 なぜなら、J-REITには「国債などの債券には逆立ちしても真似できない、決定的な強み」があるからです。
それは、「インフレに合わせて、家賃を値上げできる」という可能性です。
債券の利回りは「固定」、リートの家賃は「変動」する
債券は、一度買ったら満期まで受け取れる利息(クーポン)の金額が決まっています。世の中の物価が2倍になろうが3倍になろうが、入ってくる利息は変わりません。だから金利上昇(インフレ)に滅法弱いのです。
一方で、J-REITの収益源はリアルな「ビルの家賃」です。
世の中のモノの値段が上がり、企業の売上が伸び、給料が上がっていく好循環のインフレの中では、「オフィスの賃料やマンションの家賃、ホテルの宿泊料も引き上げる」ことができます。
分配金の原資となる家賃そのものが増額できれば、分母となる金利が上がっても、分子の利益を増やして利回りを自力で押し上げることが可能なのです。
なぜ家賃の値上げは「遅れて」やってくるのか?
「でも、最近金利が上がっているのに、リートの家賃が急激に上がったという話はあまり聞かないけれど?」 そう疑問に思う方もいるでしょう。
実は、「家賃の値上げは、インフレの波の一番最後にやってくる」というのが不動産業界の常識です。
スーパーの卵やガソリンの価格は、仕入れ値が上がれば翌週には値上げできます。しかし、不動産の賃貸借契約は通常「2年更新」や「定期借家契約」できっちり結ばれています。
オーナーが「物価が上がったから、来月から家賃を2割上げます」と言っても、契約期間中は簡単には通らない法律(借地借家法)の壁があるのです。
特に住宅用の賃貸借契約では、より値上げがしにくくなっています。家賃の値上げのしやすさでいうなら、ホテルの宿泊料やオフィスや店舗の賃料のほうが有利です。
つまり、
- 初期: まず金利だけが先に跳ね上がり、借入コスト増と利回り比較でリート価格が叩き売られる(一番つらい時期)。
- 後期: 契約更新のタイミングが巡ってくるにつれ、じわじわと家賃の引き上げが実現し、分配金が増えていく。
そう考えると、リートの業績に「インフレによる賃料上昇の果実」が本格的に表れてくるのは、まさにこれからという見方も十分にできるのです。
4. まとめ:嵐の中で「本質」を見極める
金利の上昇は、目先では間違いなくJ-REITにとって向かい風(コスト増・価格下落要因)として働きます。これは否定しようのない現実です。
しかし、相場が「金利上昇=悪」という単純な連想で総悲観になり、リート価格が売り込まれている時こそ、賢明な投資家にとっては「高い分配金利回りを安値で仕込めるチャンス」に変わることも考えられます。
- 借入金の固定化比率が高く、金利上昇のダメージをうまく抑え込んでいる銘柄はどこか?
- インフレを追い風にして、いち早く家賃を引き上げられる力(強い立地・高い稼働率)を持った物件はどれか?
ただ表面的な価格の上下に一喜一憂するのではなく、その裏側にある「不動産という事業の稼ぐ力」に目を向けること。それこそが、金利ある世界を賢く泳ぎ抜くための投資家の基本姿勢なのではないでしょうか。
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