
『新NISAで始める!年間240万円の配当金が入ってくる究極の株式投資』 配当太郎 (著)
株式投資で大暴落の悲劇を味わうと、配当金を重視するようになるらしい?
この本の著者、配当太郎氏はもちろんですが、過去にも、ジョン・バー・ウィリアムズという経済学者も配当金に中心とした株式投資の投資理論を考えていました。
配当太郎氏は、リーマンショックの大暴落で配当株を意識するようになり、ウィリアムズは大恐慌の経験から、株式の価値は、将来受け取れる配当金の価値によって決まると考えていました。
相場が良くなると、配当金よりも株価上昇によるリターンの方が増えてくるので、配当金でコツコツ増やそうとするよりも、株価が上昇しそうな株式を探して投資する方が、リターンも大きいし、なによりも手っ取り早くお金持ちになれると考えたりするものです。
しかし、いざ危機に突入すると、はやりインカムゲインというわかりやすい収益は、なにげに強い。
何よりも、株式の配当金の額は、経済危機の中であっても、そんなに減ることがなく、意外と安定している傾向にあるということが、その強さをより感じさせます。
この本の著者、配当太郎氏も、そのことに気づき、リーマンショックの中で配当株の魅力に気づいたという事でした。
配当株に関する書籍といえば、『株式投資の未来』や『「年100回配当」投資術ー日本人が知らない秘密の収入源』、『配当成長株投資のすすめ 金融危機後の負の複利を避ける方法』などいろいろありますが、それらの多くの本でも、配当株の強みに、配当金の持つ安定性を挙げていることが多い印象があります。
1株当たりの配当金の額は、リーマンショックなどの金融危機が起こったとしても、企業は配当金額をできるだけ減らさないようにしようとする傾向があるのだそうです。
『株式投資の未来』のような、実際のデータを用いながら配当金について解説している本を読むと、その傾向がより分かりやすくなります。
この本では、そこまでの詳しいデータは使われていませんでしたが、投資の名著といわれている『株式投資の未来』を参考にするなら、確かに金融危機で配当金は強みを発揮すると言えそうです。
さらに言うなら、『株式投資の未来』によれば、「1871年から2003年にかけて、インフレ調整ベースで、株式の累積リターンの97%は、配当再投資が生み出してきた。値上がり益が生み出した部分は3%にすぎない。」とさえ言っています。
配当株で運用する、その目的をしっかり理解する。
個人的な印象としては、「配当株に投資をすればいい」からといって、ただ「配当金が多い株を買う」という認識では、この本のような配当株投資は実践できない気もしています。
まず、本書でも「高配当」というスタイルで配当株投資を解説しているわけではありません。継続的に配当金が支払われるであろう企業に投資をすることを重要なポイントとして挙げている感じがします。
具体的には、各業界のトップの企業、また誰もが知っているような超大手の優良企業をメインに投資をすることを薦めています。
本書の中では、具体的な企業をいくつか取り上げて説明していますが、そのどれもが誰もが聞いたことがある企業、もしくは実際にサービスを利用している企業なのではないかと思われます。
ただ、この本でもそうですが、このような類の本でよくみられる、一つ一つの企業を、その魅力や将来性について、いろいろと解説している部分は、個人的にあまり参考にならないと見ています。
個人的な意見や感想なんてものは、いつどう変化するかなんてわからないし。ウォーレン・バフェットのような莫大な資金を持つ投資家ならともかく、一個人投資家の企業の分析の話など、そんな大した話にはならないと思った方がいいと考えています。
ただ、失敗をできるだけ避けるという意味では、超大手の優良企業という選択は、間違っていないと思っています。
そして、この本の本質的なところだと思っているところは、「手取りの配当金を増やしていくことを意識して投資を続ける」ことだと考えています。
株式投資や資産運用というと、多くの人が、資産額がいくらになったかを意識して考えていることが多いのではないかと思うのです。
しかし、配当株投資はそうではなく、いくらの配当金が入ってきたのかを考えると言っています。
気にするべき数字は、目標資産額2,000万円といったことではなく、今年の受取配当金の額はいくらだったのかどうか、将来の受け取り配当金の額はいくらを目指すのか。それを考えて株式投資をすることをお薦めしています。
そして、年間10万円を達成できれば、次は50万円、そして100万円というように雪だるま式に配当金の額が増えていくようになる。
理由は、複利で保有株式数を増やしていければ、それとともに配当金も複利で増えていくというわけです。
さらに、年間100万円の配当金を受け取れるようになると、配当金の雪だるまは、そのスピードを上げていくようになると説明しています。
最後に、「資産運用で総資産を大きく育て、老後はその資産を取り崩して生活する」、という一般的によく言われている資産運用のライフスタイルと、本書の描く株式投資のライフスタイルはちょっと違っています。
配当金という、比較的安定したインカムゲインを作ることで、そのインカムゲインを使って生活し、保有している株式はできるだけ売らないようにする、つまりは資産の取り崩しはしないというスタイルです。
意外かもしれませんが、個人的にも、これが投資の本来のスタイルだと思っています。
取り崩すために資産を形成するのではなく、安定したインカムゲインを作るために資産を形成する。そして、将来はそのインカムゲインを当てにして、生活費をやりくりする。
そうすれば、たとえ自分が思っていた以上に長生きすることになっても、精神的にお金的にも安心した人生を送ることができるようになるのではないかと思うのです。
配当株投資とは、将来に向けたインカムゲインを作る投資法。おそらくそういう目的で運用することを意味するのではないかと思いました。