
『史上最強の投資家 ウォーレン・バフェット: 資産1260億ドルへの軌跡』 トッド・A・フィンクル (著)
ウォーレン・バフェットといえば、投資の神様とか、史上最強の投資家などと称されていますが、この本では、バフェットのことを投資家としてよりも、起業家として評価している印象でした。
バフェットは子供のころから起業家精神が高かった。この本の著者は、その高い起業家精神は、祖父などの影響が大きかったのではないかと考察しています。
バフェットの家族や生い立ち、人柄、バフェットの経営しているバークシャーハサウェイの投資経歴、相棒だったチャーリーマンガーとの関係性といったことについて触れていて、投資の本というよりも、バフェットの人物像をよく書いている印象でした。
もちろん、バフェットの投資の考え方についても書かれていますが、本書の本当の目的は、バフェットから学べる「幸せに生きていくためのコツ」にあるように感じます。
幸せになるためには、お金よりも大切なことがある。
バフェットがバークシャーハサウェイから受け取っている報酬は、年10万ドル。それと、そのほかの収入が約30万ドルだそうです。1ドル140円で日本円に換算すると、約5,600万円になります。
確かに、一般的な家庭から見れば、大きな収入なのかもしれません、しかし、世界長者番付で世界3位(2025年4月時点)ともいわれる世界一の投資家の割には、その金額は少ないような気もします。
バフェットの資産のほとんどは、バークシャーハサウェイの株式で、そしてそのバークシャーハサウェイは、配当金を出さないことでも有名です。
つまり、バフェットはどんなに大きな資産を持っていても、手元に入ってくるお金は、その資産額に関係なく、先ほどの約5,600万円しかない。もちろん、バークシャーハサウェイの株式を売ることもしないので、それ以外の収入はないわけです。
収入を得たいのなら、バークシャーハサウェイから受け取る報酬をもっと高くすればいいわけなのですが、年10万ドルの報酬をもうかれこれ40年以上続けているという話です。
バフェットといえば、倹約家であることも有名ですが、自分にとって十分な収入があれば、幸せであることにそれ以上のお金は必要ないということなのかもしれません。
さらに言えば、バフェットは死後の遺産について、そのほぼすべてを寄付をすると宣言している話ですから、バフェットとバフェットの家族が手にする収入は、世界トップクラスの億万長者といわれるほどの大きなお金とはならないのかもしれません。
このようなバフェットの価値観には、「私たち一般の人たちにも言える、幸せに生きるためのヒントがあるかもしれない」、というのが、本書にとっての本当の目的なのかもしれないと感じました。
バフェットのような投資家になるためのヒント?
バフェットのような投資家になりたいと思っている人は、決して少なくないと思います。
このようなバフェット関連の本が、たびたび出版されていることからも、投資家バフェットに一種の憧れ的なものを抱いている人が、それだけたくさんいることを示しているのではないかと思っています。
バフェットの投資手法として、「割引キャッシュフロー法」という方法で投資を考えているという話があります。確かにバフェットの言動からしても、企業評価の方法に、「割引キャッシュフロー法」を使っていることは間違いないようです。
この「割引キャッシュフロー法」を理解すれば、誰でもバフェットのような投資ができるかもしれない。本書でも、この「割引キャッシュフロー法」については、ちゃんと解説をしています。
しかし現実では、この「割引キャッシュフロー法」をマスターしても、バフェットと同じパフォーマンスの投資ができるということは、まずありません。
なぜなら投資というのは、一種のアートのようなものだからです。
理屈や理論で出せる答えとは違って、感性の影響の方が強く出る世界だと考えています。そして、なにより「運」がこの世界では、最も大きな影響力を持っている。
本書では、バークシャーハサウェイの株式投資の経歴について解説しています。その中にはバフェットが失敗した経験についても紹介されています。
一度買った株は長く保有することが大切だと言われます。バフェット自身も子供の頃にそれで大きなミスをしたことがあったという話がありました。
買った株が大きく下落し、その後元に戻り、多少利益がでたタイミングで売却した。損益としてはプラスで終わっているので、失敗ではないのかもしれないけれど、その後その株式は、さらに高値へと上昇していったので、売らなければもっと大きな利益を手にできたはずだった、というミスでした。
そしてバフェットは、似たようなミスを大人になっても、繰り返している。
確かにその説明だけを見ると、大きなミスなのかもしれません。でも、ほかの案件では、似たような状況で売ったことで、逆に助かったという事例もあるかもしれない。というよりも、長く投資をしてれば、必ずあるはずです。
そういう投資の成否というのは、後になってみないとわからない。良い判断だったか悪い判断だったかは、今の時間では、わかりようがない。
だから「アート」だと言われる。
でもバフェットのような投資家を目指しているからといって、バフェットと同じパフォーマンスで運用できることが、すべてではないのかもしれません。
むしろ、本書の目的がそうであるように、バフェットと同じ価値観で運用するということが、本当の意味でバフェットを目指すということなのかもしれません。