リスクはコントロールすべきもの?
「過去のパフォーマンスが良いといっても、現実にその経路で発生するドローダウンに耐えられる人はどこにもいないし、ましてや未来における再現性は絶対と言ってよいほどない」(『監修者まえがき』より)
この言葉は、身銭を切って投資をしている人ならば、痛いほどよくわかる話なのではないでしょうか?
ドローダウンとは、投資期間における最大の損失幅のことを言っており、1回の取引でどのくらいの損失が出るかではなく、トレーダーのように、何度も売買を繰り返す中で積み重なった、最大の損失幅のことでもあります。
投資は買ったら長期間保有するバイ&ホールドが良いと、推奨されているのをよく見かけます。
しかし、過去のデータをつかってバイ&ホールドの投資をシミュレーションをすると、S&P500のようなインデックスでさえ、最大値で60%近いドローダウンを経験することになります。
「この約60%の損失に耐えられる人がどのくらいいるのでしょうか?」これは、投資戦略を考えるうえで、とても大切な事なのです。
相場が良くて儲かっている時だと、「60%の損失にも、自分なら耐えられる。」と思っている人は、驚くほど多い。
そう考えている理由は、「長く保有していれば、必ず上がるのだから」と思っているからです。
しかし、事はそんなに簡単な話ではないのです。実は、相場が悪くなると、将来の見通しは一様に悪くなります。暗いニュースや希望のない話ばかりで、気が滅入ることもあるでしょう。
そして、自分の大切な資産についても、長期保有で大丈夫なのだろうかという『不安』を抱えることになります。この『不安』に打ち勝つことが出来る人は、相当少ないと思っています。
日本社会に対して、ただ漠然と不安を抱いている人も同じだと感じています。
少子高齢化?、財務不安?、政治不信?、実際いろんな不安がありますが、時としてその不安と感じていたことが、時代によっては強みとなることだってあるものです。
不安に感じていることのほとんどが意味のないものであることも、多かったりするものです。
『不安』に打ち勝つというのは、思っている以上にとても難しい。そのうえ、実際にそういう状況に遭遇してみないと、実感としてわからない、というのもまた大きな問題です。
だからこそ、バイ&ホールドという投資戦略は、シミュレーション上の幻想だと言われることがあるわけなのです。
本書では、バイ&ホールドという幻想から離れて、『リスクをコントロールする』ということを最大限に考えることが目的になっています。
そう、やり方次第で『リスクは、自分でコントロールする』ことができるものなのです。
この本は、短期投資家だけでなく、長期投資家も含め、すべての投資家に向けて書かれたものとなっています。
自分のコントロール下で最大限のリスクを取る
リスクからは、誰も逃れることができません。
そして、リスクから逃れようとすれば、リターンを得ることが出来なくなります。
だからこそ、私たちはリスクに立ち向かっていかなければならないわけです。
投資のコツは、リスクを減らすことではなく、自分の許容できる範囲で、最大限のリスクを取ることだと著者は考えています。
そして、その最大限のリスクを取るために、リスクをコントロールすることを考えるというのが本書の狙いです。
どんなリスクにも対処できる『全天候型トレーダー』。それが本書の描く投資家のイメージです。
「今後出合う困難を乗り切り、うまく行く時期を楽しめる戦略」(「はじめに」より)、そんな自分だけのトレード戦略を考えるヒントを与えようというのが、本書の目的となっています。
本書の「第2章 全天候型投資の哲学を作る」では、リスクとリターンの関係を調べて、必ずしもバイ&ホールドが正しいというわけではないという事が提示されています。
投資を続けていく上で、ほとんどの人が、最大限のリターンを目指す必要はないはずです。
最大限のリターンを得ることよりも、リスクとリターンのバランスが良い方がいいはずです。もっと言えば、最大ドローダウンをできるだけ小さくしながら、そこそこのリターンが得られるような戦略があれば良いなと思う人は多いのではないでしょうか。
本書で出てくるリスクコントロールの投資法の例には、投資のタイミングを計る投資や、下落リスクにヘッジ(保険)をかける投資法、いろんな投資戦略に幅広く分散させる投資法などが挙げられています。
読んでいると、これは難しそうだなと思う投資戦略も含まれています。しかし、この本の著者も言っている通り、これらすべてを実践しようとする必要はありません。
自分の生活スタイル、投資にかけられる時間、資金量、目的などによって、使い分けたっていいと言っています。
バイ&ホールドに偏らない、自分ならではの『全天候型トレーダー』という投資スタイルが、プロの投資家でなくても実行することが出来るかもしれない、と思わせてくれる本でした。