
『賢者の投資思考 チャールズ・エリス 60年の思索の軌跡』 チャールズ・エリス (著)
『敗者のゲーム』の著者として知られる投資の巨人、チャールズ・エリス氏。彼はその著書で、多くの個人投資家が直面する悩みに、シンプルな答えを提示しました。
「投資はテニスの試合と同じ。プロ同士の戦いでは、相手のミスを待つ『敗者のゲーム』に徹する方が勝てる。」
この衝撃的なメッセージは多くの投資家を魅了しました。
そして今回、彼の最新作『賢者の投資思考』では、さらに深い洞察を私たちに与えてくれます。
なぜ、投資のプロは市場の「平均」に勝てないのか?、そして投資のプロはこれからどうあるべきなのか?、その答えがこの本にはあります。
投資信託を利用している、私たち個人投資家にとっても、見過ごせない内容です。
プロが勝てない、驚きの理由
投資信託を選ぶ際、「インデックスファンドが良い」という意見を多く耳にするようになりました。
その理由はとてもシンプルで、ほとんどのアクティブファンドが、市場平均を示すインデックスファンドに、運用成績で勝てていないという事実があるからです。
考えてみてください。スポーツやビジネスの世界で、プロが平均以下の成績しか出せないなんて、ほとんどありえないことです。しかし、金融の世界ではそれが当たり前に起こっています。
この事実を知った後で、インデックスではなくアクティブファンドに投資しようと思う人は、ほとんどいないのではないでしょうか?
エリス氏の説明では、この不思議な現象は現代の株式市場の構造が原因になっていると言っています。
現在の株式市場は、売買のほとんどをプロの投資家が行っている、まさに「プロがプロと戦う」熾烈な競争の場になっている。
そして、株式市場での売買による利益の本質は「誰かの利益は誰かの損失」というゼロサムゲームです。
つまり、現代の株式市場の構造は、プロ同士が限られたパイを奪い合うという構造になっているというわけです。
そんな世界で、プロということに優位性があるわけがありません。
それに対し、インデックスファンドはプロの競争にただ乗りするプラスサムゲームと言えます。無理に人より多く稼ごうとせず、市場の平均リターンをそのまま受け取ることで、ほぼ確実に利益を得られる。
この「勝とうとしない」ことが、株式投資で利益を得る一番の近道というわけです。
高コストはリターンを食いつぶす
それでも「プロなら平均を上回れるはずだ」と、高い手数料を払ってアクティブファンドを選ぶ人もいるかもしれません。しかし、エリス氏はデータでその選択が賢明ではないことを示しています。
アクティブファンドの約80%が、15年後には市場平均に負けてしまうという現実。この背景には、主に2つの理由があります。
一つは、プロ同士がしのぎを削る現代の市場環境です。短期的な売買を繰り返せば、プロであっても勝ち続けることは困難になります。
もう一つは、高額な手数料です。私たち個人投資家が直面する大きな問題は、アクティブファンドの手数料(信託報酬)が非常に高いことです。たとえファンドがわずかに市場平均を上回るリターンを出したとしても、その利益のほとんどが手数料によって消えてしまいます。
投資のプロはもう必要ない?
では、プロの投資家は必要のない存在という事なのでしょうか?
エリス氏はそうは考えていません。
運用成績を上げるという目的においては、プロの優位性は確かに薄れています。しかし、投資のプロには、別の重要な役割があると言います。それは、顧客一人ひとりの人生に寄り添い、資産形成をサポートする「アドバイザー」としての役割です。
具体的には、資産配分やリスクコントロール、ライフプランに応じた運用方針の策定など、顧客の状況に合わせたアドバイスを行うことです。
インデックスファンドを利用すれば、素人でもプロを上回る運用成績を上げることができるとはいっても、実際に、一個人がその通りに実行できているとは限りません。
投資には、数値的ものだけでは説明できないことも多々あります。家計や個人の性格、経済環境、などなど、運用方針の在り方は、それこそ人それぞれであるべきです。それに寄り添いアドバイスをするという所では、まだまだプロが活躍できる部分があるとエリスは言っています。
しかし、残念ながら、今の金融業界では、運用成績で評価されるファンドマネージャーのような「投資のプロ」の方が注目されがちです。顧客のためのアドバイザーでは、今のファンドマネージャーのような報酬を得ることは、とても難しいのが現状です。
この本は、単にインデックス投資を推奨するだけでなく、私たち個人投資家がどういったプロと付き合うべきか、そして金融業界全体がどうあるべきかについて、深く考えさせてくれる一冊です。