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『幸せとお金の経済学』 ロバート・H・フランク(著)

経済や科学、その他の本

幸せはお金では買えない?

本書は、幸せになるためのお金の使い方といったノウハウ的な内容の本ではなく、幸せとお金の関係について考えた『経済学』の本です。

幸せとお金について、経済学という学問の視点から考える内容です。

「幸せはお金で買える」という言葉を聞くことがあります。しかし本書からは、「科学的な視点から考えると、どうやらそうでもないようだ」ということがわかってきます。

私たちのこの時代では、「今の自分は幸せだ!」と思っている人は意外と少ない方で、特に中流階級以下では、自分のことを幸せだと思っていない人が多くなる傾向にあるようです。

年収の大小などによって幸せと感じていない人が増えてくる傾向があるので、一般的にも、「お金がない」「収入が少ない」ということが、自分のことを幸せだと思えない原因だと思われているようです。

「給料が増えないから、幸せになれない。」、「年収が増えている高所得者が羨ましい。」

しかし、今の私達は本当に幸せではないといえるのだろうか。今から50年ぐらい前の生活から見たら、今の自分たちの生活レベルは、幸せな生活をしていると言えるのではないだろうか?

家は、エアコンなどの空調システムが効いていて、過ごしやすい環境で生活することができる。車だってエアコンやパワーウィンドウ、といった快適な装備が当たり前のようについている。スマホなどで自由に情報を探したり、動画を見たり、連絡を取り合ったり、とても便利な端末を常に手にしていられる。

社会システムだって、道路や交通システムも整っていて、移動も楽々です。銀行などの金融も高度化してきて、個人レベルで株式や不動産などに簡単に投資できる環境も整っている。

50年前の当時の人達から見たら、とてつもなく贅沢なものを、今の人たちはたくさん手にしている。間違いなく、生活レベルば、当時の人たちよりも豊なはずです。

それなのに、今の私たちは、自分たちのことを幸せだと思っていない。

不思議な話ですが、その理由が、幸せとお金の経済学の一番のポイント『コンテクスト』なのだそうです。つまりは、『他者との比較』によって人は幸せを感じられなくなると言うのが本書の主張です。

考えてみれば今は、インターネットなどの普及や情報端末の手に入りやすさなどから、情報がとても安く、しかも大量に手に入りやす環境になっています。

その結果、私たちは他者との比較が容易になってしまい。自分よりも豊かな生活をしている人の話もより目にするようになった。SNSなどは、その最たる例かもしれません。

「手近な機械で、自分より収入が高い人たちの生活を知り、自分の生活レベルの位置を意識するようになって、ついには、幸せを感じにくくなってしまっている。」というわけです。

格差が生み出す、経済的な問題。

誰もが、なんとなくだけど『格差社会は良くない』と思っている。でも、「格差社会がなぜ問題なのか説明しなさい」と言われても、うまく答えられる人はほとんどいないことでしょう。

本書は、そのなぜ格差社会が問題なのかについての答えを、論理的かつ直感的に説明してくれています。

著者いわく、高所得者が高額な商品を買うと、その支出に合わせるように中間所得層が支出を増やし、さらにその下の階層でも同じことが起こるようになる。

その結果、所得に占める支出の割合が、高所得者層よりも中間所得層以下のほうが大きくなってしまっている。

しかも、今の時代は、中間所得層以下の所得が増えにくくなっているが、高所得者層はどんどん所得が増え、支出も増やしているので、収入が増えないのに、高所得者に合わせるように支出が増えている中間所得層以下には、さらに生活がギスギスしていくことになり、余裕がなくなり幸せを感じにくくなっている。

という解説です。

格差が広がれば広がるほど、その傾向はより増していき、さらに幸せを感じにくい社会になっていく。

格差社会の広がりとは、そういう悪循環を生み出してしまっているというわけです。

言われてみれば、そんな難しい話でもなく、わかったような話ですが、現実には言われてみるまで気づかない話でした。

そもそも『今の経済学』が、人が他者との比較で世界を見ているということを前提に考えているものではないため、その『今の経済学』の考え方をもとに活動している、政治や社会もまた問題だと著者は言っています。

私たちが幸せであるためには、今の社会から離れて生活しなければいけないのかもしれない。スマホなどを捨てて、無駄な情報から遠ざかり、みんな同じような収入で生活しているところに移り住む。これが、私たちが幸せになるための一番の方法なのかもしれません。

欲を言えば、その場所でちょっと頭一つ抜きに出るぐらいになると、もっとも幸せを感じることができるのかもしれません。

本書では、こんな世の中から少しでも幸せを感じる人たちが増えるようになるために、税制の見直しによって、もっと幸せだと感じられる社会にするための提案も書かれています。

結論としては、「私たちが幸せになるためにどうすればいいのか」は、あまりはっきりしていない感じではありましたが、それでもとても面白い内容の本でした。

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