
『投資に必要なことはすべて海外投資家に学んだ』 シデナム 慶子 (著)
本書の海外投資家とは、主にアセットオーナーのことを指しているようです。
アセットオーナーとは、財団や大学の基金などを運用している機関のことで、私たちにもなじみがある機関としては、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が挙げられます。
これらのアセットオーナーが行っている運用方法は、GPIFをはじめそのほとんどが、複数の資産に分散投資を行い、資産配分をコントロールしながら運用するスタイルの投資戦略を採用しています。
たとえば、私たちの年金資金を運用しているGPIFの場合には、国内の債券と株式、海外の債券と株式に、それぞれ1/4づつ投資をするという方針で運用を行っています。(2024年度)
そして、このアセットオーナーたちが行っている運用スタイルこそが、私たち個人にとって、もっとも適した運用法なのではないかというのが、本書の目的となっています。
本書の著者が言うには、個人の運用目的とアセットオーナーの運用目的には、似ているところがあるといいます。
個人もアセットオーナーも、数年単位の短期的なパフォーマンスより、数十年単位の超長期的なパフォーマンスの方が重要になってきます。
そして、超長期間にわたる運用の中では、数十年単位の超長期で保有する投資もあれば、状況が芳しくない期間は投資をしない、もしくは投資を減らすということもありえます。
実は、投資信託やヘッジファンドを運用している機関投資家にとっては、そのような投資スタイルは難しい。
たとえば、日本株式に投資をするタイプの投資信託だと、集まった投資資金はすべて日本株式に投資されることになり、投資資金の一部を投資に使わないという事は、許されません。
そのような点で、個人の資産運用とアセットオーナーの運用は、投資環境がとても似ているというわけです。
つまり著者の考えでは、個人の資産運用は、アセットオーナーの運用が参考なると考えているわけです。
アセットアロケーションとオルタナティブ
はっきり言ってしまえば、本書では、具体的な資産運用戦略の説明についてはほとんど触れていません。
資産運用の具体的な運用方法について知りたいと思って読む人には、この本は、少し物足りない内容だと感じるだろうなと思いました。
しかし、本書の意図するところは、とても大切なところだろうとも思いました。
アセットオーナーのように資産配分のコントロール(アセットアロケーション)で運用するスタイルというのは、個人の資産運用にとっては最適な方法だと、私個人も感じています。
運用パフォーマンスの過去の推移グラフを見ると、いろんな資産に分散投資をするよりも、オルカンのような株式だけに投資するタイプの運用方法の方が、高いリターンになることがわかります。
そして、そのリターンを見て、オルカンやS&P500などの株式資産だけに投資する方法が一番いいと言われることがあります。
そのことについては、確かにその通りだと思うし、決して間違っているとは思っていません。
ただ現実的に、一個人がその運用方法を実現できるかとなれば、話は別だと考えています。
私たち人間は、機械とは違い、感情というものを持っています。そしてこの感情が、相場を大きく変動させる最大の要因であり、また、私たちが投資で大きな過ちを犯す最大の原因になっていると考えています。
だからこそ、最高のリターンを求める運用をしようとするも、できるだけ損をしないようにとリスクをコントロールしながら行う運用を行った方が、結果的にはうまくいきやすい。
そもそも資産運用で、どの程度のリターンがあれば十分といえるのかを考えてみると、意外とそんなに高くないことに気づいたりもします。
株式に100%投資して、年率10%以上というリターンを追わなくたって、一般の家庭の資産形成という目的ならば、年率3~5%もあれば、おそらく十分だと思っています。
具体的なイメージとしては、月30,000円を40年ぐらい(就職してから退職するまで)積み立てて、資産が2,000万円をこえてくるぐらいの運用。(年利3%で40年間積み立てると、約2,751万円になる計算です。)
そのぐらいの運用ができれば、一般的な生活のための資産形成としては十分な可能性が高いのではないかと思っています。
それと、本書ではオルタナティブ投資についても触れています。
実は、ハーバード大学やイエール大学などの大学基金や一部の年金基金などでは、オルタナティブを使った運用が広がっています。
オルタナティブとは、株や債券といった伝統的な投資資産とは違った投資資産のことで、具体的にはプライベートクレジットや不動産といった資産のことを指しています。
このような投資先は、最低投資金額がとても高く、そのほとんどが個人投資家の手の届かないものとなっています。
実は、本書の著者は、このオルタナティブ投資を一般の個人投資家が利用できるようにし、一般的なものとすることを目的とした金融機関(会社)のCEOです。
そのため、自身の会社の紹介が本書にも出てきています。
本書の意図としては、個人がアセットオーナーのような運用を行っていくにあたって、アセットオーナーと同じようにオルタナティブ投資にも興味の範囲を広げてほしいというのがあるのかもしれません。